ピアノの調律でお宅に伺うと「ピアノの調律はどれくらいの頻度でやればいいの?」というご質問をよくいただきます。
コンサートやレコーディングで使うピアノは本番前に必ず調律をするのですが、ご自宅で楽しむピアノの場合は定期的な調律をした方がいいとはいっても、どれくらいの頻度で調律をしたらいいのかわからないですよね。
ホールから一般のご家庭までたくさんのピアノ調律経験から、定期的な調律をする意味と、最適な調律の頻度を1級ピアノ調律技能士の平山響一郎がお答えします!
定期的に調律をする意味
まず、「ピアノは定期的な調律をした方がいい」といわれているのはなぜでしょうか?
ピアノは鍵盤を弾くと、様々なカタチをしたパーツが組み合わさっているアクションという部分が連動してハンマー動き、硬い鋼鉄製の弦を叩いて音が出ます。
弦はとても強い力で引っ張られていて、その引っ張られている具合によって弦から出てくる音が変わります。
弦を強く引っ張れば音が高く、弦を引っ張る力を弱めれば音が低くなります。
鉄でできている弦は伸縮性があり、同じ力で引っ張り続けていると次第に伸びて、張力が下がって音が低くなります。
この弦を引っ張りなおすことでピアノの音程を揃える・合わせる作業を「ピアノの調律」と呼ぶのですが、調律をする時にはピアノの鍵盤や弦の調整をするチューニングピンだけでなく、アクションやハンマーなど、アップライトピアノではカバーで覆われていて普段あまり目にすることがない部分のカバーを外して作業をします。
「定期的にピアノの調律をする」というのは、普段あまり目にすることがない部分を目で見て触れることで、ピアノの状態をチェックするという意味があるのです。
調律はピアノの健康診断
普段あまり目にすることがない部分をチェックするピアノの調律は、まさにピアノの健康診断といえます。
人間のカラダと同じく、表向きには特に何も問題が無さそうなピアノでも、普段あまり目にしない箇所をよく見てみるとパーツの摩耗や劣化が隠れていることがよくあります。
ピアノはパソコンや自動車とは違って、ひとつのパーツに故障や不具合があるとすべてが全く機能しなくなるという事はありません。
88の鍵盤の中からいくつかの鍵盤でブッシングクロスの摩耗で鍵盤がほんの数ミリ左右にぶれるようになったり、アクションの動きがちょっと悪くなったり、ハンマーのフェルトが摩耗して少し思った通りに弦を叩く力が伝わらなかったり、徐々に機能的な劣化が進んでいきます。
ピアノは時間の経過と共にほんの少しずつ劣化していくので、ご自宅で毎日のようにピアノを演奏する方ほどなかなか気付くことができません。
そんなピアノの劣化や不具合を発見するきっかけとなるのが調律で、ピアノの健康診断のために定期的な調律が必要です。
定期的な調律で不具合を早期発見
ピアノの調律を生業としている調律師は、日々たくさんのピアノに触れています。
1級ピアノ調律技能士の平山響一郎は、ホール・スタジオ・カフェ・バー・個人住宅などでグランドピアノやアップライトなどの種類やメーカー、製造された年代を問わず年間で200台ほどのピアノの調律をしています。
ピアノには個体差があるので、ふたつとして同じ状態のピアノはありませんし、ピアノオーナーさんごとに求めるタッチや弾きやすさも異なります。。
多数のピアノを見て触れる中で、個体差やピアノオーナーさんの好みとは別に不具合の有無とその原因がある程度推測できるようになりました。
数多あるピアノのパーツの中でも特に劣化しやすいのが「ブッシングクロス」というものです。
鍵盤のシーソー運動を支える金属製のピンが当たる場所に貼られている布製のパーツで、木製の鍵盤と金属製のピンが直接当たらないようにするために必要なのですが、鍵盤を弾くたびにブッシングクロスが少しずつ擦り減っていき、劣化が進むと鍵盤が左右にブレて音の粒が揃わなくなったり弾きづらさを感じたりします。
日常的にピアノを演奏しているオーナーさんほどピアノへの愛着がありますし、ほんの少しのパーツの劣化度合いも含めてピアノがオーナーさんの好みに仕上がっていて、なかなか気付くことができない不具合が隠れていることがあります。
調律のご依頼をいただいたらまずはしっかりとピアノの音程を揃える・合わせる作業を行うのですが、たくさんのピアノを調律の経験をもとに、不具合があれば実際に劣化し始めている箇所やパーツをご覧いただいて、より快適にピアノのパフォーマンスを最大限発揮するために必要なご案内をしています。
人間のカラダには治癒力・回復力があるので、健康診断で出たいろいろな数値を元に、例えば生活習慣の見直しをすることでカラダを健康にしたりすることができますが、ピアノには治癒力や回復力がありません。
定期的な調律をしていれば、その都度不具合の箇所を発見することができますし、不具合を早期発見することができれば、ご予算に合わせて長い目で見たピアノのメンテナンス計画を立てることができます。
なによりも、不具合や違和感を抱えながらピアノを演奏しているとピアノの演奏が楽しくなくなってしまいますよね。
アナタに最適な調律の頻度とは!
では、定期的なピアノの調律はどれくらいの頻度で行えばいいのでしょうか。
一般家庭で週に2-3回、1回につき2時間ほどの演奏をする方であれば1年に1回の頻度でピアノの定期調律をすることをおすすめします。
次の調律まで少しずつ徐々に音程が変わってもピアノの音程は1年に1度しっかり合わせれば大きな違和感はありませんし、ピアノの劣化しやすいパーツも1年に1度チェックをすれば摩耗や劣化の進み具合から修理のタイミングを逃すことはありません。
一般家庭でも毎日・日常的にピアノを演奏している方は半年に1度の頻度でピアノの定期調律をおすすめします。
ピアノの調律は徐々に変わるものなので、半年に1度の調律でしっかり音程を合わせることができますし、毎日ピアノの演奏をする方の場合はピアノの音程よりもパーツの摩耗や劣化をしっかりチェックすることの方が大切です。
毎日ピアノを演奏する方ほど、万一不具合で鍵盤を弾いて雑音が混じったり音が出ないという症状が出てしまうと気が気じゃないですよね。
定期的な調律で長いお付き合いをさせていただいているお客様の中には、3か月に1度の調律をする方もいらっしゃいますが、とても演奏の頻度が高く、音のズレが許せないとの事で、とても繊細なアスリートのような感覚を持っていらっしゃる方です。
いずれにしても、定期的にピアノの調律をするという事は人間の健康診断のようなものです。
人それぞれの演奏頻度、好み、繊細さ等ありますが、平山響一郎による定期的なピアノの調律でピアノのパフォーマンスを最大限引き出しますので、快適で楽しくピアノを演奏してください!