調律日誌

ジャズピアニスト海野雅威への支援のお願い

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(画像:「海野雅威さんを励ます会」より)


新型コロナウイルスの影響で、これまでできていたことができなくなり、どの業界も同じだろうが、エンターテインメント業界も「どうしたらいいのか・何をすればいいのか」絶対的なアンサーが無い中で、一歩一歩前進していくしかない。

ワタクシ平山響一郎も、スケジュール帳に入っていた仕事が延期になったり、予定していた定期調律を見送るしかない状況が長く続いた。
それでも今何かできる事はないか、今後何から手を付ければいいのか、出口の見えない状況でも気持ちだけは折らないように、できる限り音楽業界の友人と情報交換をしていた。
そんな中で新しい出会い・新しい試みがあり、そこに希望を見い出しながら毎日を過ごし、お客様に生の音を届けられるコンサートやライブが少しずつ再開に向けて動き出していた10月上旬、こんなショッキングなことが起こってしまった。

NYで日本人ピアニスト重傷 地下鉄駅構内で暴行される

Yahoo!ニュース

Japanese Jazz Pianist Tadataka Unno Badly Injured After Attack In Subway

CBS NewYork
調律師という仕事をしていると、どんな状況でも「パニックになる」や「取り乱す」という事はない。

調律するピアノはふたつとして同じものはないので、ピアノに触れながら・音を聞きながら、何か問題があってもそれを解決するために状況を冷静に観察しながら、目の前のピアノと向き合うしかないからだ。

もちろん、向き合った結果として「ある程度は改善するが、すぐにその場では全てを解決できない」という事もあるので、その理由を説明するためにも「問題点の洗い出し」と「その解決のために必要なことは何なのか?」を冷静見極めて言語化できなければ長く調律師としての仕事を続けることは難しい。

以前、このウェブサイトを作るにあたって写真撮影をしてくれたカメラマンの友人に「響さんが調律をしてる時の顔って、穏やかというか、無垢というか、何色にも染まっていない子供のような顔と目つきになりますね。」と言われた。

そんな自覚は無かったが、目の前のピアノと向き合うためには周囲の環境や先入観、自分の感情に振り回されてはいけないから、ある意味では「無」に近い状態なのかもしれないし、自然とそのような顔つきになっているんだろう。


しかし、この時は、まだ大学生だった海野雅威との出会いが一瞬で蘇ると同時に、「自分ができる事は何なのか?」「いやいや、まずは状況を把握しなきゃ、でもどうしたらいい?」「共通の友人に聞いてみるか?」「英語版のニュースサイトを漁れば何か情報があるのか?」…何から手を付けていいのかわからなかった。

この時は取り乱していた。





彼との出会いは、ジャズドラマーの海野俊輔氏の紹介だった。
「響さんいい奴がいるから面倒みてもらえますか?」というひと言から。

最初の印象はひょろっとした学生さんっといった印象。
調律師に「面倒見てくれ」という話があれば、それはピアノの調律をしてくれという事で、いつもどおり調律師としての仕事を始めた。
学生さんの中でもピアノ科やピアノ専攻であればちゃんと定期的にピアノの調律をしているものだが、彼のピアノを見て触れたところ、ピアノの調律は久しぶりな様子。

それからピアノの外装を開けて内部の状態を確認して「一日かけてメンテナンスしないか」と提案した。
やはり、長らく調律をしていないピアノは1回2時間程度の作業だけで納得できるピアノに仕上がることはほとんどない。
同じ音楽畑の友人から紹介されたのだから、調律師としてやれることはやっておきたかった。

ピアノオーナーであるお客さんに満足してもらい、調律師である自分でも納得できるピアノに仕上げるというのが調律師としての矜持だが、時間や費用などいろいろな理由があり、すべての現場でそれができるわけではない。
それも現実だ。
しかし彼は「はい、お願いします。」と受け入れてくれた。

よし、これで目の前のピアノを納得いくまで調律ができる。
そして掃除やらズレた調整等を直し、先が見えたところで一度弾いてもらった。

彼はなんてことはないコードをなんてことなく弾いた。
上手く説明が出来ないが、衝撃が走った。
クラシックにはクラシックの、ジャズにはジャズの、ポップスにはポップスの、それぞれの「言語」というか「プロトコル」というか、音の根底に流れている「魂」のようなものがある。
大阪のブルーノートで約10年、第一線で活躍して箱を埋める本場のジャズピアニストの演奏を間近で聴いてきたが、彼がなんてことなく弾いたコードには、まさにジャズの「それ」を感じた。

平山「ちょっ、、、もう一度弾いてくれる?」
海野「あっはい!」
とこたえて、彼はなんてことないコードをなんてことなく再び弾いてくれた。

おった!(驚きのあまり、慣れ親しんだ関西の言葉になってしまった)

実は、この時ワタクシ平山響一郎は彼のことをよくわかっておらず、ピアノ好きなたんなる青年なのかなと勝手に思っていた。
まだ彼のピアノの調律を完全には終えていない。
しかし、後にも先にもないが、仕事を中座して「お茶を飲みに行こう」と提案した。
近所のコーヒー屋さんへ入った。

そこからはワタクシ平山響一郎からのインタビュー。
ひと回りほど歳が離れた、この日が初対面の調律師が目を輝かせて目の前の若者にたくさんの質問をしていた。
平山「君は何をやっているの???」
海野「芸大の作曲科です。」
平山「それでライブとかやってるの?」
海野「月2~3回くらいです。」
平山「なるほど。」
なるほど、などと落ち着いているように装っていたが、目の前の素晴らしい才能を持った青年に、内心は沸き立っていた。


年長者として目の前にいる青年を応援したくてたまらなかった。

平山「君、卒業したら大変なことになるよ。」
平山「わかってる?仕事いっぱい来るよ。」
海野「そうなるといいですね(笑)」
照れるように笑って青年はそう答えた。

そう彼はまだわかってない。これからの自分を。

そして色々話してをした後、ある提案をした。
平山「東京である程度やったらニューヨークに行きなよ、そしてレコーディングに呼ぶんだよ(笑)」
たぶん彼はその時にワタクシ平山響一郎が何を言ってるかわかってはいなかったと思うが、音楽でつながっている友人やジャズバーのオーナー達に「とんでもない奴を見つけた!」「今のうちに呼ばないとライブ聴けないよ!」なんて話したこと記憶している。

後にニューヨークに行った彼からメールがあった。
「響さん、あの時の約束はわすれてませんよ」と。
泣かせる奴め…。





海野雅威と出会った時のこと、それから何度も会い、音と言葉でコミュニケーションを交わし、ニューヨークに行った彼からメールをもらった時のことを何度も何度も思い出してしまう。

出会いから約20年、彼はニューヨークで大変な目にあってしまったが、みんないつまでも待ってる。
そして今は身体、心の治癒に専念してほしい。

時間を戻すことはできない。
残念ながら、今回彼の身に起こってしまったことはひとつの現実だ。

どうか、この記事を読んでいただいた方には彼へのドネーション(寄付)をお願いします。

日本のジャズマン達が「海野雅威さんを励ます会」として、ライブを行いドネーションをすることができます。
ライブは視聴チケットを購入してご覧いただけます。
「アーティストサポート」として、視聴チケットとは別に、海野雅威氏を支援するために任意で寄付することができます。


「海野雅威さんを励ます会」


海野雅威さんを支援する配信コンサート LOOK FOR THE SILVER LINING

また、全世界に向けて海野雅威氏の公式ドネーションを募っているサイトもあります。

【海野雅威氏公式ドネーション】Support for Tadataka and Family



なお、この出来事の後の海野雅威へのインタビュー記事はこちらです。

ジャズピアニスト海野雅威「NYで負った痛みより、もらった愛のほうが大きい」

クーリエ・ジャポン


皆さんからの心よりの支援、よろしくお願いいたします。




平山響一郎
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作業中は電話に出られない場合がありますが、後程折り返しいたします。
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